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Astar NetworkのネイティブトークンASTRは、Superchain上でシームレスに機能するSuperchain ERC-20となり、新たなフェーズに突入しました。
Astar Evolutionの一環として、Astar Foundationは、Chainlinkのクロスチェーン相互運用プロトコル(CCIP)と、Optimismが提唱するSuperchainERC20(ERC-7802)規格を活用した新しいASTRのスマートコントラクトを導入しました。
この進化により、ASTRは単一ネットワークのガバナンストークンから、より広範なEthereumエコシステムで活用されるクロスチェーン資産へと生まれ変わります。
本記事では、このアップグレードの背景にある「AstarをSoneium、そしてSuperchain全体へと接続する」というビジョンについて解説し、その後、新しいASTRスマートコントラクトの仕組みを技術的な観点から掘り下げます。
From Astar to Soneium: 相互運用性における新章の幕開け
Astarはその創設当初から「すべての人をweb3へつなぐ」ことをミッションに掲げてきました。そして今、Astar Evolution Phase 1.5 の一環として、Astarは「ブロックチェーンからコレクティブへ」と進化を遂げようとしています。その中核をなすのが、相互運用性です。このビジョンは、Soneiumの登場に大きく推し進められました。ASTRをSoneiumに統合するにあたり、AstarはChainlinkのCCIPを採用し、安全なクロスチェーン相互運用性を実現しましました。これは、CCIPによって完全に接続されており、AstarやSoneiumだけでなく、Superchainのエコシステム全体と相互接続されたアセットになることを意味します。これにより、AstarとSoneium間で流動性がシームレスに行き来し、クロスチェーンアプリケーションの可能性が大きく広がります。
「Chainlink CCIPがASTRトークンの安全なクロスチェーン転送を可能にしたことを嬉しく思います。これは、Astarのマルチチェーン展開を加速させる重要なステップであり、CCIPによって極めて安全かつ信頼性の高い方法で実現されています。」
Sean Chung(Chainlink Labs ブロックチェーン・パートナーシップ・マネジメント)
Chainlink規格とSuperchainERC20への準拠
AstarがChainlink CCIPを統合したのは、単なる一時的なブリッジ構築ではありません。これは、ASTRの相互運用性を将来にわたって保証するため、業界標準との整合性を図る長期的な取り組みの一環です。
Astar Evolution 1.5におけるこの取り組みは、大きく2段階に分かれています。まずは、Chainlink CCIPを活用した安全なブリッジの展開と、OP Stackの相互運用ソリューションであるERC-7802クロスチェーントークン規格に対応したASTRのトークンコントラクトのアップグレードです。
ASTRはすでにこの標準を採用する準備が整っており、BaseやOP Mainnetなど、Superchain上の複数ネットワーク間をシームレスに移動できるSuperchain対応アセットとしてのポジションを築きつつあります。
ERC-7802とは?
ERC-7802はトークンコントラクトが標準化されたクロスチェーントランスファー機能を実装できるようにする、最小限のインターフェースです。
この規格では、crosschainMintとcrosschainBurnという2つの関数が定義されており、認可されたブリッジコントラクトがこれらを呼び出すことで、チェーン間のトークン移動時にミントやバーンが可能になります。これまでプロジェクトごとに異なるブリッジロジックを構築していたのに対し、ERC-7802は共通の言語を提供することで、発行元のチェーンでバーンし、移転先のチェーンでミントする「テレポーテーション型」の移動を実現します。
また、CrosschainMintやCrosschainBurnといったイベントも標準で定義されているため、クロスチェーン移動の過程を透明性のある形でトラッキング可能です。要するに、ERC-7802はクロスチェーン転送のプロセスを標準化し、ERC-20との互換性を維持しながら透明性を高めることを目的とした仕様です。
“One Superchain, One Token”
ASTRは、まさに「One Superchain, One Token」モデルを採用しています。ERC-7802規格への準拠により、ASTRはより広範な相互運用ネットワークへと組み込まれ、Superchainの拡大とともに、コアアセットとしてASTRも同時に成長していきます。
Optimismが推進するSuperchain構想では、ERC-7802をSuperchainERC20として正式に採用し、あらゆるトークンがOP Stack上の複数のチェーン間で断片化なく利用できることを目指しています。
「Superchainは、流動性、アプリケーション、ユーザーのための安全で信頼性の高い相互接続ネットワークとして急速に発展しています。Superchainの相互運用性が拡大する中で、ASTRのような資産は、1ブロックファイナリティ、スリッページゼロ、統一されたセキュリティモデルによって、チェーン間をストレスなく移動できるようになります。これは、EthereumおよびSuperchain全体におけるDeFi成長の理想的な基盤となるでしょう。」
Zain Bacchus (OP Labs スタッフプロダクトマネージャー)
この新たなアプローチでは、ラップドトークンの生成や流動性の分断を回避しています。従来のlock-and-mint型ブリッジでは、転送元のチェーンでトークンをロックし、転送先で“ラップド(包まれた)”トークンを新たに発行していました。しかし、今回のモデルでは、正規のブリッジ(canonical bridge)によってオリジナルのトークン自体が各チェーン上で直接ミントおよびバーン可能になります。
さらに、トークンは原則としてすべてのチェーンで同一のコントラクトアドレスにデプロイされており、統一されたSuperchain Token Bridgeが必要に応じて crosschainMint / crosschainBurn 関数を呼び出せるように設計されています。
AstarのユーザーおよびASTRホルダーにとって、今回のアップグレードは、ASTRが真にマルチチェーンで機能する資産となることを意味します。
さらにweb3業界全体にとっても、AstarがChainlink CCIPおよびERC-7802を採用したことは、Polkadot接続チェーンがEthereumベースのエコシステムとの相互運用性を実現する一つのモデルケースとして、大きな意義を持ちます。
ASTRスマートコントラクトのアップグレード詳細
ASTRのスマートコントラクトは、Chainlink CCIPとERC-7802の両方に対応するため、AstarのエンジニアリングチームによってSoneium上に設計されました。今回のアップグレードでは、以下の4つの主要目的を達成する機能が実装されています。
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クロスチェーンでのミント/バーンの実現
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Chainlinkインフラとの統合
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コントラクトのアップグレード対応
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セキュリティの確保
その結果、OpenZeppelinのUUPSプロキシパターンを用いたアップグレード可能なERC-20トークンコントラクトに、ERC-7802インターフェースが実装されました。また、クロスチェーン転送を可能にするChainlink CCIP統合済みのトークンプールコントラクトと組み合わせる構成となっています。
ERC-7802インターフェースの実装(クロスチェーンミント/バーン)
ASTRトークンコントラクトでは、ERC-7802で定義されている crosschainMint(address to, uint256 amount) と crosschainBurn(address from, uint256 amount) の2つの関数が実装されています。これにより、認可されたブリッジ(今回の場合はChainlinkのCCIPブリッジコントラクト)が、ASTRを受け取ったチェーン上で新たにミントしたり、送信元のチェーン上でバーンしたりすることが可能になります。
ASTRのトークンコントラクト
また、クロスチェーンのミントやバーンが行われた際には、標準化されたイベントが発行され、AstarやSoneium、その他のネットワーク間での資金移動を透明にトラッキングできます。ERC-7802仕様に厳密に準拠することで、ASTRはSuperchainERC20規格を認識するあらゆるブリッジングソリューションやツールと簡単に相互運用できるようになります。
Chainlinkインフラとの統合(トークンプール)
Chainlink CCIPでは、クロスチェーンのトークン移動を管理するために「トークンプール」という概念が採用されています。ASTRの実装では、BurnMintTokenPoolとLockReleaseTokenPoolの2種類のプールコントラクトが提供されています。
ASTRのクロスチェーン「テレポーテーション」モデルでは、Burn/Mint型のアプローチが採用されています。たとえば、ASTRをAstarからSoneiumへ送る際、Astar側のトークンプールがASTRをロックし、Soneium側の対応するプールが同量の新たなASTRをミントします。
Chainlink CCIPのインフラは、このような監査済みのトークンプールコントラクトを提供することで、クロスチェーン検証をシンプルにします。ASTRのスマートコントラクトは、Chainlinkの各トークンプールに適切なロールと権限を付与することで、必要に応じてmintやburnの関数を呼び出すことを可能にしています。
この設計により、ASTRのクロスチェーンでのミントやバーンは、CCIPのスマートコントラクトのみが実行可能となり、不正なエンティティがASTRの供給量を操作することは不可能になります。
ロールベースのアクセスコントロール
上記の仕組みを安全に機能させるために、ASTRのスマートコントラクトでは、OpenZeppelinのAccessControlおよびOwnableによる細かな権限管理が採用されています。
ミントおよびバーンの処理は、特定のMinter/Burnerロールを持つエンティティのみに許可されています。このロールは、Chainlink CCIPのトークンプールコントラクトおよび、Superchain相互運用性を担うOP Stackの事前デプロイ済みSuperchain Token Bridgeに割り当てられています。
つまり、一般ユーザーや通常のコントラクト呼び出しによって、勝手にASTRをミント/バーンすることはできません。すべての処理は、Astar Foundation(トークンオーナー)からアクセス権を付与されたCCIPまたはSuperchainの相互運用フローに従ってのみ実行されます。
徹底したテストと監査(セキュリティの確保)
クロスチェーン機能を担うトークンコントラクトは、その性質上、極めて高いセキュリティが求められます。ASTRの実装にあたっても、Astarチームは入念なユニットテストと外部監査を実施しました。
リポジトリには、標準的なERC-20の挙動、クロスチェーンでのミント/バーン、ロールベースの制御、そしてアップグレードシナリオに関する包括的なユニットテストスイートが含まれています。
さらに、セキュリティ監査の専門機関Cyfrinに依頼し、コードベースの監査を実施。クロスチェーン機能、ロール管理、プロキシアップグレード機構に関する検証が行われ、既知の脆弱性が存在しないことを確認しました。
この外部監査により、開発者やユーザーがASTRコントラクトの安全性を安心して信頼できる基盤が構築されています。
なお、監査レポートはこちらから誰でもご覧いただけます。
ASTRスマートコントラクトのコードやテスト、デプロイ全体に興味のある方は、こちらのGitHubリポジトリをご確認ください。
参考リンク:
- SuperchainERC20 - Optimism Docs
- Superchain explainer - Optimism Docs
- CCIP - Chainlink Docs
- Astar CCIP - Chainlink DevHub
- Soneium CCIP - Chainlink DevHub
Astarのクロスチェーン戦略と今後の可能性
Chainlink CCIPおよびERC-7802(SuperchainERC20)の導入は、Astarにとって大きな進化の節目となります。単一のブロックチェーンとして始まったAstarは、今や相互接続されたコレクティブなエコシステムへと変貌を遂げつつあります。
ASTRをクロスチェーントークンとすることで、AstarはまずSoneium、そして将来的にはBaseやOP Mainnetなど、他のネットワークへの展開を加速しています。Superchainの潮流に合流することで、ASTRはweb3における複数の世界をつなぐ“架け橋”としての役割を果たす存在になりつつあります。
開発者やエコシステムパートナーにとって、今こそ、このクロスチェーンの未来を共に築く絶好の機会です。Superchain上の他ネットワークでアプリケーションを構築している方にとっても、ASTRはERC-7802準拠によって相互運用可能なアセットとして統合可能です。
開発者の皆様には、GitHub上のオープンソースコードの確認、技術ドキュメントの精読、テスト環境におけるCCIPの実験的導入を強く推奨します。
また、Chainlink CCIPがAstar Portalに統合されているため、ユーザーはASTRをAstarからSoneiumへ、わずか1回のトランザクションでブリッジ可能です。Superchainの相互運用性がさらに成熟すれば、すべてのSuperchainネットワーク間でのASTR転送も、わずか2クリックで完結する未来が待っています。
執筆:Taegeon Alan Go(Startaleフルスタックエンジニア)